結論:物上げ営業を効率化するには、売主を見つけてから考えるのではなく、「どのような物件・所有者を営業候補にするか」を先に決め、候補抽出 → 所有者確認 → 優先順位付け → 接触 → 追客までを一つの業務として設計することが重要です。
物上げは不動産売買の入口となる仕入れ活動です。ところが、紹介・一括査定・飛び込みだけに依存すると、売主候補の件数や質を安定させにくく、担当者ごとの人脈や経験に成果が左右されやすくなります。
そこで本記事では、物上げの意味から、売主候補を見つける6つの方法、データを使った候補抽出、営業リスト化、訪問前の仮説づくり、追客までを実務の流れに沿って解説します。
この記事でわかること
- 物上げ・物上げ営業の意味
- 物上げと客付け・地上げ・買取仕入れの違い
- 売主候補を見つける代表的な6つの方法
- 空き家・築古・長期保有・相続等を候補化する考え方
- 候補をA/B/Cに分けて優先順位を付ける方法
- 物上げ営業を属人化させない週間フロー
- 登記・所有者情報を営業に使う際の注意点
- 不動産チェッカーの活用方法
物上げとは?物上げ営業の意味
「物上げ(ぶつあげ)」は、不動産業界で使われる用語で、一般に売却物件や売主を発掘し、媒介契約などの売却依頼を獲得して、売り物件を確保する活動を指します。
会社や業態によっては、土地・建物を自社で購入する仕入れまで含めて「物上げ」と呼ぶこともあります。本記事では、検索意図に合わせ、主に売主候補を発掘して売却案件を獲得する営業を「物上げ営業」として扱います。
不動産仕入れ全体については、前の記事「不動産仕入れとは?仕入れ方法7選」で詳しく整理しています。
物上げと客付け・地上げ・買取仕入れの違い
| 用語 | 主な意味 | 営業の相手 |
|---|---|---|
| 物上げ | 売主・売却物件を発掘し、売却依頼や媒介を獲得する | 不動産所有者・売主候補 |
| 客付け | 売り物件に対して買主を見つける | 購入希望者 |
| 地上げ | 開発等の目的で複数の土地・権利をまとめるため交渉する | 対象区域の土地・建物権利者 |
| 買取仕入れ | 不動産会社が自ら物件を購入する | 売主・仲介会社等 |
物上げと客付けは、売買仲介の供給側と需要側にあたります。物上げで売却案件を確保し、その物件に買主を見つけるのが客付けです。
そのため、仲介会社にとって物上げ力は、「自社で扱える売り物件をどれだけ持てるか」に直結する重要な営業機能です。
物上げ営業で売主候補を見つける6つの方法
物上げの方法は一つではありません。オンライン反響、紹介、地域営業、データ活用を組み合わせ、売主との接点を複数持つことが重要です。
| 方法 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 1.既存顧客・過去顧客からの紹介 | 信頼関係から相談につながる | 地域密着・既存顧客基盤が強い会社 |
| 2.一括査定・Web広告・自社サイト | 売却意向が顕在化した層と接点を作る | 反響型営業を増やしたい会社 |
| 3.士業・金融機関・管理会社等との連携 | 相続・資産整理・管理の相談を起点にする | 紹介ネットワークを作れる会社 |
| 4.地域営業・現地調査 | 重点エリアを歩き、空き家・低利用地等を把握 | 狭い商圏を深く攻める会社 |
| 5.DM・電話・訪問 | 所有者へ直接接点を作る | 営業候補を一定数持っている会社 |
| 6.不動産データから候補を抽出 | 物件・所有・登記条件で売主候補を探す | 自社独自の営業リストを継続的に作りたい会社 |
重要なのは、「売却意向が出た人だけを待つ」方法と、「売却・活用の相談余地がありそうな候補を自社で探す」方法を分けて考えることです。
物上げ営業を「売却シグナル探し」だけにしない
物上げ営業では、相続、空き家、築古、長期保有などが注目されます。ただし、これらは本人の売却意思そのものではありません。
例えば、相続した不動産をそのまま保有する人もいれば、築古建物を修繕して使い続ける人もいます。したがって、データは「売る人を当てる」ためではなく、「詳しく確認すべき候補を絞る」ために使います。
| 候補条件 | 考えられる相談テーマ | 断定してはいけないこと |
|---|---|---|
| 空き家・低利用 | 管理、売却、賃貸、活用 | 空き家だから売りたい |
| 築古 | 修繕、建替え、売却、買取 | 古いから処分したい |
| 長期保有 | 資産整理、組替え、承継 | 長く持っているから売る |
| 相続 | 保有方針、資産整理、売却査定 | 相続したからすぐ売る |
| 共有名義 | 将来の管理・処分・承継 | 共有だから揉めている |
| 遠隔地所有 | 管理負担、売却、賃貸 | 遠方だから不要 |
相続後の売却相談については「相続後に売却相談が起きやすい不動産とは?」、相続登記については「相続登記とは?」も参考になります。
データを使った物上げ営業の5ステップ
STEP1:営業したいエリア・物件を決める
最初に、「売主なら誰でもよい」と考えないことが重要です。自社が得意とするエリア、物件種別、価格帯、出口戦略から営業対象を決めます。
STEP2:物件条件から候補を抽出する
空き地、築古建物、一定面積以上の土地、長期保有など、自社の営業仮説に合う候補を探します。
STEP3:所有者・登記情報を確認する
必要な候補について、所有者、所有権移転、共有、抵当権等を確認します。登記情報は「何を聞くか」の仮説づくりに使います。
STEP4:A/B/Cに優先順位を付ける
複数条件が重なる候補や、自社の商材と適合する候補から優先して営業します。
STEP5:営業結果を条件へ戻す
接触率、査定化率、媒介獲得率、断られた理由などを記録し、翌週・翌月の候補条件を調整します。
物上げ営業リストに入れる項目
物上げ営業では、所有者名と住所だけのリストより、「なぜこの所有者へ営業するのか」が分かるリストの方が、担当者が会話を組み立てやすくなります。
| 分類 | 主な項目 |
|---|---|
| 物件 | 所在、地番、種別、面積、築年数、用途地域、現況 |
| 所有 | 所有者、共有、所有権移転、保有期間の確認材料 |
| 権利・融資 | 抵当権、根抵当権、設定時期等 |
| 候補理由 | 空き家、築古、相続、遠隔地、重点エリア等 |
| 営業 | 接触日、結果、会話内容、査定、次回予定 |
| 評価 | A/B/C、商談化、媒介獲得、失注理由 |
営業リスト全般の作り方は、「不動産営業リストの作り方」でも詳しく解説しています。
物上げ営業は「誰に行くか」で効率が変わる
営業担当者の話し方を改善する前に、そもそも営業対象が適切かを確認します。100件へ無差別に接触するより、自社の商材に合う20件へ理由を持って接触した方が、営業改善の検証もしやすくなります。
例えば、買取再販であれば築古・空室・再生余地、用地仕入れであれば面積・接道・用途地域・隣接筆、売却仲介であれば空き家・遠隔地所有・共有・長期保有など、見る条件は変わります。
地主営業の記事でも解説している通り、営業候補は「物件・所有者・タイミング」の複数軸で優先順位を付けます。
「見込み客」と決めつけない
条件に合うからといって、本人が売却・活用を希望しているとは限りません。候補抽出は、営業対象を機械的に断定するためではなく、「詳しく確認する順番」を決めるために行います。
物上げ営業を属人化させない1週間の進め方
| 曜日 | 作業 | 残すデータ |
|---|---|---|
| 月 | 重点エリア・条件を決め候補を抽出 | 候補理由、件数 |
| 火 | 所有者・登記を確認しA/B/Cへ分類 | 優先順位、確認情報 |
| 水〜木 | Aランクを中心にDM・電話・訪問等 | 接触結果、会話、査定意向 |
| 金 | 反応・失注理由を集計 | 商談率、媒介率、次回条件 |
この運用で大切なのは、架電件数・訪問件数だけでなく、どの条件の候補が査定・相談・媒介へ進んだかを見ていくことです。
そうすれば、ベテラン担当者の「この辺が良さそう」という感覚を、若手にも共有できる条件へ変えていけます。
2026年10月以降は「受付帳待ち」からの転換も必要
2026年10月1日から、不動産登記受付帳の記録事項が簡素化され、「登記の目的」「不動産所在事項」が削除されます。そのため、受付帳から相続・売買等の登記と対象不動産を結びつけて一覧的に候補化する従来手法は難しくなります。
今後は、物件条件から候補を先に抽出し、必要な登記情報を確認する営業フローを持つことが重要です。
制度改正後の具体的な営業設計は、「受付帳に頼らない不動産営業とは?」で詳しく解説しています。
不動産チェッカーを物上げ営業に活用する
不動産チェッカーでは、地図上から土地・建物を確認し、面積、家屋数、用途地域、築年数、登記情報などを組み合わせながら、物上げ営業の候補抽出・優先順位付けに活用できます。
- 重点エリアから物件候補を探す
- 空き地・築古など自社の条件で候補を絞る
- 所有者・登記情報を確認する
- 相続・売買等の変化や担保情報を営業仮説に使う
- 候補をリスト化してチームで追客する
物上げ営業で重要なのは、単に所有者情報を取得することではありません。「どの物件を、なぜ営業候補にするか」を決めるところから効率化することです。
複数の登記簿PDFを比較する場合は、無料PDF変換サービス(1回100件まで)でExcel化して整理する方法もあります。
登記・所有者情報を物上げに使う際の注意点
個人情報保護委員会は、登記簿等によって公開されている情報であっても個人情報であることに変わりはなく、取得時には利用目的の特定が必要としています。
物上げ営業で所有者情報をリスト化する場合は、利用目的、社内での閲覧権限、保存期間、データ持ち出し、削除、接触頻度等についてルールを設けます。
特に相続に関する情報を使う場合は、相手の心情や接触時期に配慮し、「相続したから売るはず」「築古だから困っているはず」といった断定的なアプローチは避けます。
よくある質問
Q. 物上げとは何ですか?
不動産業界では一般に、売主・売却物件を発掘し、媒介契約などの売却依頼を獲得して売り物件を確保する仕入れ活動を指します。会社によっては自社買取の仕入れまで広く物上げと呼ぶ場合もあります。
Q. 物上げと客付けの違いは?
物上げは売主側の案件を確保する活動、客付けは売り物件に対して買主を見つける活動です。
Q. 物上げと地上げは同じですか?
同じではありません。物上げは売却物件・売主を発掘する仕入れ活動を指すことが多く、地上げは開発等のために複数の土地・権利をまとめる交渉を指します。
Q. 物上げ営業ではどうやって売主候補を探しますか?
既存顧客・紹介、一括査定・Web集客、士業・金融機関等との連携、地域営業、DM・電話・訪問、不動産データからの候補抽出などを組み合わせます。
Q. 空き家や相続物件なら売却意向が高いですか?
空き家・相続・築古などの条件だけで売却意向を判断することはできません。候補を絞るための参考情報として使い、実際の意向は所有者本人へ確認します。
Q. 物上げ営業を効率化するには何が重要ですか?
営業先選定、所有者確認、優先順位付け、接触、追客、結果分析までを標準化し、どの条件の候補が査定・媒介へ進んだかを次の候補抽出へ反映することが重要です。
まとめ
物上げ営業は、不動産売買の入口となる売主・売却案件を作る活動です。紹介や一括査定などの反響を増やすことも重要ですが、それだけでは仕入れ件数を自社でコントロールしにくい面があります。
そこで、物件条件・所有者・登記情報を使い、自社が営業したい候補を継続的に作る仕組みを持つことが有効です。
候補条件を決める
↓
物件を抽出する
↓
所有者・登記を確認する
↓
A/B/Cに優先順位を付ける
↓
営業・追客する
↓
反応を次の条件へ戻す
この流れをチームで回せるようにすると、物上げ営業を担当者個人の経験や人脈だけに依存しにくくなります。
関連記事
ご注意ください
本記事は一般的な情報提供を目的としています。「物上げ」の用語範囲は会社・業態によって異なる場合があります。登記・所有者情報を営業へ利用する場合は、個人情報保護法、宅地建物取引業法、各種法令、自社の個人情報保護方針・社内規程等に従って適切に運用してください。
仕入れ候補を「待つ」だけでなく、自社で見つけませんか?
地図・物件条件・登記情報を組み合わせ、営業エリアの中から候補を絞り、所有者確認や営業リスト作成までを効率化できます。