全部事項証明書は「表題部 → 甲区 → 乙区」で読みます
全部事項証明書とは、法務局が発行する不動産の登記事項証明書のうち、 その不動産の登記記録に記録されている事項の全部を証明したものです。
土地・建物の所在や面積といった物理的な情報に加えて、 所有者の変遷、 抵当権 や 根抵当権 の設定状況まで確認できます。
不動産取引で最も多く使われる証明書で、かつて 登記簿謄本 と呼ばれていた書類に相当します。
この記事でわかること
- 表題部・甲区・乙区の読み方
- 下線が意味すること
- 共同担保目録の見方と請求時の注意点
- 実務で見落としやすい5つのポイント
- 他の証明書との使い分けと手数料
結論:見方の要点は3つ
- 登記上の現在の所有者は権利部(甲区)で確認する: 所有権に関する登記がある場合、甲区に記録された現在効力を有する登記名義人が、登記上の現在の所有者です。
- 下線がある事項は抹消・変更済み: 下線を見落とすと、抹消済みの抵当権を現在も有効だと誤読します。
- 登記名義人と実際の権利者が一致しない場合がある: 相続や売買による所有権移転が未登記の場合は、以前の所有者の名義が甲区に残ることがあります。
全部事項証明書とは
法務局には、土地1筆・建物1個ごとに登記記録が作成されています。 その内容を登記官が公的に証明した書面が登記事項証明書です。
登記事項証明書には複数の種類があり、 登記記録に記録されている事項の全部を証明するものが全部事項証明書です。
実務では今も「登記簿謄本」「謄本」と呼ばれることが多く、 提出先から登記簿謄本を求められた場合は、通常、全部事項証明書を用意します。
全部事項証明書でも、すべての履歴は分からない
コンピュータ化される前に閉鎖された登記簿の情報は含まれません。 古い沿革まで遡る場合は、閉鎖事項証明書などを別途請求します。
全部事項証明書は3つのパートで構成される
| パート | 記載される内容 | 一言でいうと |
|---|---|---|
| 表題部 | 所在、地番・家屋番号、地目・種類、地積・床面積など | どんな不動産か |
| 権利部(甲区) | 所有権に関する事項 | 誰のものか |
| 権利部(乙区) | 所有権以外の権利に関する事項 | 担保などが付いているか |
| 共同担保目録 | 同じ債権を担保する他の不動産 | 他にどの物件がセットか |
- 内容
- 所在・地番・地積・床面積など
- 一言
- どんな不動産か
- 内容
- 所有権に関する事項
- 一言
- 誰のものか
- 内容
- 所有権以外の権利
- 一言
- 担保などが付いているか
- 内容
- 同じ債権を担保する他の不動産
- 一言
- 他にどの物件がセットか
表題部、甲区、乙区の順に読むと、不動産の概要から権利関係まで整理して確認できます。
抵当権・地上権・賃借権などの登記がなければ、乙区自体が存在しない場合もあります。
表題部の見方
表題部には、不動産の物理的な状況が記載されます。
土地の場合
| 項目 | 内容 | 注目点 |
|---|---|---|
| 所在 | 市区町村・字まで | 住居表示とは異なる |
| 地番 | 土地に付された番号 | 住所の番・号とは別物 |
| 地目 | 宅地、田、畑、山林、雑種地など | 農地には農地法の制約がある |
| 地積 | 土地の面積 | 実測と一致しないことがある |
| 原因及びその日付 | 分筆、合筆、地目変更など | 土地の履歴が分かる |
建物の場合
| 項目 | 内容 | 注目点 |
|---|---|---|
| 所在 | 建物が建つ土地の地番 | 土地の登記記録と紐づく |
| 家屋番号 | 建物に付された番号 | 地番と同じ数字とは限らない |
| 種類 | 居宅、共同住宅、店舗、倉庫など | 登記上の用途を確認できる |
| 構造 | 木造、鉄筋コンクリート造など | 階数も記載される |
| 床面積 | 各階の面積 | 未登記増築がある場合もある |
区分建物の場合
- 一棟の建物の表示
- 敷地権の目的である土地の表示
- 専有部分の建物の表示
- 敷地権の表示
敷地権が設定されているマンションでは、土地と建物が一体として扱われます。
権利部(甲区)の見方:所有権
甲区は、登記上の現在の所有者と、所有権の移転履歴を確認する欄です。 相続や売買などによる所有権移転が未登記の場合は、 甲区の登記名義人と実際の権利者が一致しないことがあります。
| 欄 | 内容 |
|---|---|
| 順位番号 | 登記された順番 |
| 登記の目的 | 所有権保存、所有権移転、差押え、仮処分など |
| 受付年月日・受付番号 | 法務局が受け付けた日と番号 |
| 権利者その他の事項 | 登記原因、所有者の住所・氏名・持分 |
登記原因から読み取れること
| 登記原因 | 読み取れること |
|---|---|
| 売買 | 市場取引による取得。保有年数の確認材料になる |
| 相続 | 相続による所有権移転 |
| 贈与 | 生前贈与や資産承継の可能性 |
| 財産分与 | 離婚などに伴う所有権移転 |
| 競売による売却 | 過去に競売を経て取得された |
差押え・仮差押え・仮処分を見落とさない
甲区には所有権移転だけでなく、差押え、仮差押え、仮処分も記載されます。 甲区は途中で読み止めず、最後まで確認してください。
所有者情報だけを確認する用途では、 所有者事項証明書 を利用する方法もあります。
権利部(乙区)の見方:担保などの権利
| 権利 | 内容 |
|---|---|
| 抵当権 | 特定の債権を担保する権利 |
| 根抵当権 | 一定の枠内で継続的な債権を担保する権利 |
| 地上権 | 他人の土地に建物などを所有する権利 |
| 賃借権 | 登記された賃貸借の権利 |
| 地役権 | 通行・引水などのため他人の土地を利用する権利 |
| 配偶者居住権 | 相続後も配偶者が居住を継続する権利 |
抵当権から確認できること
- 債権額
- 利息・損害金
- 債務者
- 抵当権者
- 原因となった契約日
抵当権者を確認すると、所有者がどの金融機関と取引しているかを把握できます。 ただし、登記される債権額は設定時の金額であり、現在の残債ではありません。
根抵当権が設定されている場合
根抵当権は、継続的な取引から発生する債権を極度額の範囲内で担保します。 事業性融資で使われることが多く、借入完済後も自動的には消滅しません。
共同担保目録の見方
共同担保目録には、同一の債権を担保するために設定された他の不動産が記載されます。
- 土地と建物が一体で担保に入っているか
- 複数物件が同じ融資の担保になっているか
- 対象物件以外にどの不動産が共同担保となっているか
担保評価や融資先調査では、対象物件だけでなく共同担保全体を見る必要があります。
請求時に「共同担保目録」を指定する
共同担保目録は、請求時に必要と指定しないと付かない場合があります。 手数料は変わらないため、担保関係を確認する目的なら選択しておくのが安全です。
下線の意味と、見落としやすい5つのポイント
下線は抹消・変更された事項
全部事項証明書では、すでに効力を失った事項に下線が引かれます。 下線の有無を確認せずに読むと、抹消済みの権利を現在も有効だと誤認します。
- 表題部の所有者欄で現在の所有者を判断しない: 所有権に関する登記がある場合、登記上の現在の所有者は甲区で確認します。
- 甲区の最終行だけで所有者を判断しない: 最終行には住所変更、差押え、仮差押えなどが記載されている場合があります。 下線や順位番号を確認し、現在効力を有する所有権の登記を読み取ります。
- 乙区に記載があっても、現存する担保とは限らない: 抹消済みの抵当権も履歴として残ります。
- 閉鎖登記簿の情報は含まれない: 古い沿革を追う場合は、閉鎖事項証明書などを別途請求する必要があります。
- 現況と登記が一致しない場合がある: 未登記増築や滅失登記未了などがあるため、必要に応じて現地確認も行います。
また、相続や売買などによる所有権移転が未登記の場合は、 亡くなった所有者や以前の所有者の名義が甲区に残っていることがあります。 この場合、甲区で確認できるのは登記上の所有者であり、 実際の権利者を確認するには相続関係などの追加調査が必要です。
特にPDFをOCRでデータ化する場合、下線を正しく判定できず、 抹消済みの抵当権を有効な情報として取り込むことがあります。
他の証明書との使い分け
| 種類 | 記載範囲 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 全部事項証明書 | 登記記録の全部 | 取引・融資・調査の標準 |
| 現在事項証明書 | 現在効力を有する事項のみ | 現在の状態だけを確認 |
| 所有者事項証明書 | 物件表示と所有者の住所・氏名・持分 | 所有者確認だけでよい場合 |
| 何区何番事項証明書 | 指定した区・順位番号 | 特定の登記だけを証明 |
| 閉鎖事項証明書 | 閉鎖された登記記録 | 過去の沿革調査 |
- 範囲
- 登記記録の全部
- 用途
- 取引・融資・調査の標準
- 範囲
- 現在効力を有する事項
- 用途
- 現在状態だけ確認
- 範囲
- 物件表示と所有者情報
- 用途
- 所有者確認だけでよい場合
- 範囲
- 閉鎖された登記記録
- 用途
- 過去の沿革調査
提出先の指定がない場合は、情報量が多い全部事項証明書が標準的な選択肢です。
取得方法と手数料
| 取得方法 | 手数料 | 受取まで |
|---|---|---|
| 法務局窓口 | 600円 | 即日 |
| 郵送請求 | 600円+郵送料等 | 数日〜1週間程度 |
| オンライン請求・窓口受取 | 490円 | 翌業務日以降 |
| オンライン請求・郵送受取 | 520円 | 数日 |
| 登記情報提供サービス | 330円 | 即時 |
1通の枚数が50枚を超える場合は、超える50枚までごとに100円が加算されます。
提出用と確認用は別物
登記情報提供サービスで取得するPDFには登記官の証明文がありません。 提出する場合は全部事項証明書、内容確認だけならPDFと使い分けます。
オンライン請求の詳しい手順は、 登記簿謄本をオンラインで取得する方法 で解説しています。
取得には地番・家屋番号が必要
請求には住所ではなく地番、建物では家屋番号が必要です。 地番が分からない場合は、法務局への照会や 公図 、ブルーマップなどで確認します。
誰でも取得できる
不動産の登記事項証明書は、所有者本人以外でも取得できます。 ただし、取得した個人情報を営業利用する場合は、個人情報保護法や社内規程の確認が必要です。
よくある質問
全部事項証明書と登記簿謄本は違いますか?
実務上はほぼ同じものを指します。現在の正式名称は登記事項証明書です。
有効期限はありますか?
法律上の一律の有効期限はありませんが、提出先が発行後3か月以内などの条件を設ける場合があります。
マンションでは土地の証明書も必要ですか?
敷地権付き区分建物では、通常は建物の全部事項証明書で敷地権まで確認できます。
乙区がありません。取得ミスですか?
抵当権など所有権以外の権利が一度も登記されていなければ、乙区が存在しない場合があります。
共同担保目録が付いていません。
請求時に必要と指定しなかった可能性があります。担保関係を見る場合は指定します。
抵当権の債権額から残債は分かりますか?
分かりません。登記されているのは設定時の債権額です。
登記簿上の所有者が亡くなっていました。
相続登記が未了なら亡くなった方の名義が残ることがあります。実際の権利者確認には追加調査が必要です。
全部事項証明書をExcelにできますか?
可能ですが、表構造・外字・抹消事項など登記簿特有の情報に注意が必要です。
全部事項証明書だけでは分からないこと
- 所有者がほかに所有する不動産
- エリア内で条件に合う物件の件数
- 金融機関別の担保設定状況
- 未登記増築や実際の利用状況
- そもそも、どの物件を調査すべきか
全部事項証明書は、特定した物件の正確な登記情報を確認するための書類です。 調査対象の物件を探す仕組みではありません。
物件を探す段階から確認する場合
不動産チェッカー では、地図上から不動産の登記情報、所有者情報、担保設定などを確認できます。 地番が分からない状態から物件を特定し、営業先・融資先の候補を検討できます。
取得済みの登記情報PDFを一覧化する場合は、 無料PDF変換サービス を利用できます。
まとめ
- 全部事項証明書は、不動産の登記記録の全部を証明する書類
- 構成は表題部、甲区、乙区の3つ
- 所有権に関する登記がある場合、登記上の現在の所有者は甲区で確認する
- 下線がある事項は抹消・変更済み
- 相続や売買などの所有権移転が未登記の場合は、 登記名義人と実際の権利者が一致しないことがある
- 共同担保目録は請求時の指定が必要
- 手数料は書面600円、オンライン490〜520円、PDF確認330円
- 取得には住所ではなく地番・家屋番号が必要
関連記事
参考・出典
- 不動産登記法・不動産登記規則
- 法務局「主な手数料一覧【令和7年4月1日〜】」
- 法務局「不動産登記のよくあるご質問」
- 登記情報提供サービス「利用料金の改定について」
ご注意ください
本記事は2026年7月31日時点の公開情報をもとに作成しています。 手数料や制度の運用は改定される場合があるため、 実際の手続きでは法務局および各公式サイトの最新情報をご確認ください。 個別の法的判断については、司法書士などの専門家へご相談ください。
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